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兎に角 [文学]

中学に入学した年、父が文学全集を購入しよう、と
言い出した。私はわっと賛成した。「世界文学全集」がいい!
読みたい作品の名前が次々に浮かぶ。『紅はこべ』とか、
『三銃士』とか、『赤毛のアン』とか(はたして、こうした
作品が、普通の文学全集に入っていただろうか?)

父は、「いや、翻訳物は訳に左右され過ぎる。やはり
日本語のきちんとしたものがいい」と言い張り、結局
購入が決まったのは河出書房版の「日本文学全集」だった。
かなり落胆した・・・。

それでも、長い夏休みなどは読むものに飢えて、
渋々ながらこの全集も、ぽつぽつと引っ張り出しては
読んでいた記憶がある。川端康成、三島由紀夫、
谷崎潤一郎・・。理解できない部分もあったが、それなりに
面白く読めた。続いて、山本有三、丹羽文雄、徳田秋声・・・。
このあたりは、中学生にはまったく面白くない。
今になっても、かなり面白くない。ほとんど、とん挫した。

井上靖は『城砦』と『猟銃』が収められている。中学生の時は
長編の方が好きだったので、『城砦』から読み始め、これも
途中でやめたのではなかったか、と思う(内容を覚えていない)。
『猟銃』から読み始めたら、この作家の印象も変わっていただろうな、
と今になっては思うのだが。

内容は覚えていないのに、ときどき突然登場する「兎に角」、
あるいは「兎も角」という言葉だけは鮮やかに記憶している。
私はずっとこれを「ウサギにつの」「ウサギもつの」と
読んでいて、いったいどういう意味だろうと、気になっていた。

鬼に金棒、みたいな意味? いや、豚に真珠? だろうか。
突然登場するので、文脈と合わない、と
焦りまくり、それでも手塚治虫の漫画に突如現れる、
たこぼうず(?)みたいに面白がっていた・・・。
次にどこ出てくるのかな、とか(ほんと、アホだ)。

関野裕之さんの歌集にこんな歌があって、ああ、みんな
同じなんだな、と少しほっとした。ガリバー・・の
訳者は誰だったんだろう。

  兎に角をうさぎにつのと読んでいた『ガリヴァー旅行記』父の書棚に
               関野裕之『柘榴を食らえ』
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