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ペルー旅物語(その11) [旅]

ガハマルカ(カハマルカ、と表記されることもあるようだ)という
ペルー北部の町は、インカ帝国の最後の王、アタワルパの終焉の地である。
スペインからの侵略者たちは、わずかな兵と宗教関係者だけからなる
小隊であったという。彼らは王に対し、キリスト教への帰依を強制しようとし、
うまく理解できなかったアタワルパに苛立つ。部屋一杯の金細工の供与を
条件に、王はスペイン兵の撤退を求める。インカの優れた工芸品の価値を
理解できなかったスペイン人たちは、この細工物を全部溶かして本国へ
持ち帰ることにし、約束も反故にして、王を処刑した。1533年のことである。

その後、この地域に起きたことを想像すると本当に痛ましい。
スペイン人とケチュアとの混合が進む一方で、原住民の人たちへの差別や
弾圧も進んだのではないだろうか。この地域が今も格差に苦しみ、テロが
絶えないのも、こんな歴史のもたらすところではないか、という思いが拭えない。

ガハマルカの町を発つ朝がきた。同じバスでリマを目指すのだが、標高のやや
高いガハマルカの町は、その日、霧に覆われていた。バスは真っ白い霧の中を
進んでいく。私はなんだかとても胸元が息苦しかった。途中で、吐いてしまうのでは、
という怖れが兆したのだけれど。なんとか、無事に山間部を抜け、バスの動きが
安定してきて、ほっとしたことを覚えている。それにしても、何とも
過酷な旅だった。あれからあちこちへ旅してきたけれど、あんなに
強烈な印象深い旅はなかった。歌も何首か詠んだが、あの旅から受けた
様々な感情は、とても表現できなかった。

 土壁をとかげ這うごと人動き町に廃墟のしずもりありき
 くらぐらと微光はなちて山すその町に錨をおろす僧院
 インディオの語気あらき人の売りくるは目くらむまでの緋を織りし布
 山の黙ふかきを告げて馬鈴薯の花群くだる白き風あり
 ひとすじの予感を醒まし山の神すぎたりとおき尾根の輝き
                   岡部史『コットンドリーム』

(とりあえず、「ペルー旅物語」はここにて終了です。
お読みいただき、ありがとうございました。)
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