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絵の教科書 [藝術]

絵を描こう、と思い立った今年六月から、図書館や書店に行くと、
絵に関する本のコーナーに立ち寄るようになった。
これまでそういうことは皆無だったので、毎回色々な発見がある。

「絵の描き方」を指南する本は凡そ構成が決まっていて、
必需品(画材、筆、紙など)を紹介するあたりから始まって、
身近な小さなものの描き方から始まり、静物、人物、動物、自然や
建物の描き方を指南する、という風に展開する。
画風や指導の方法は少しずつ異なっていて、
比べながら読んでみると、その差異が実に面白く感じられる。

最近とても興味を引かれたのが、トニー・コーチという画家の
『基礎からの水彩 風景を描く①』(岩田瑞穂訳 MPC発行)という本。
十枚の絵を課題として提示し、それぞれの絵の描き方を指導しながら、
水彩画の基礎を学んでいく、と言う形になっているところは、
よくあるパターンだが、興味を引かれたのは風景画(この本は「風景編」なので)
の課題に取り上げられている題材である。

一般に取り上げられるものとはかなり、違ったものが混じっているのだ。
西洋の画家のこうした教科書はもちろん、日本人のものでも、
題材として頻繁に取り上げられるのは、重厚な西洋的な建物や、
西洋風の庭、観光地が圧倒的に多い。
いずれも壮麗、あるいは華麗な風景や建造物ばかりである。

ところがこのコーチという人の絵には、そうした題材が
一切出てこないのである。課題の第一が枯れた樹木、
次が葉のある樹木までは、普通だが、第三に「羽目板」とあって、驚いた。
不細工で貧しげな、どこかの掘立小屋の板壁が題材に
なっているのである。ついで「納屋!」
ああ、これはアメリカの画家、それも地方出身の画家なんだろうと思った。

この本には作者についての紹介が一切記されていなかったが、
この「納屋」の課題の頁に、作者自身の絵として「バーモントの田舎」
と題された絵が掲げてあるので、たぶん間違いないだろう。さらには
「納屋は水彩画で好んで取り上げられるモチーフです」と紹介されている
のには、笑ってしまう。日本人はたぶん、描きません。

でも、提示されている絵を見ていたら、しみじみとアメリカで
暮していた日々が思い出されて、懐かしくなった。どの絵にも、
アメリカらしい光と影、乾いた空気感が漂っていて、素朴で純粋で
美しい。この本の課題から、幾つか選んで模写してみた。
納屋は。。。今のところまだ取り組んでいない。
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