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行李 [生活]

十年前、上海でしばらく暮らすことになった時、
中国語講座のCDを買って、少しだけ勉強したことがある。
その時、持ち物(荷物)のことを「行李(シンリー)」と
言うのだと知って、驚いた。日本の「行李(こうり)」と同じ?

行李といっても、多くの若い人が知らないだろう。
畳み藺草のような素材で作られた、細長い箱状の入れ物で、
戦前を舞台にした映画なんかを見ていると、長旅をするような
人たちが、これに紐をかけて背負っている場面が出てきたりする。
四隅に硬い布をはりつけて補強してある点に特徴があり、
子供の頃、我が家の押し入れの奥に眠っていた記憶もある。
ほとんど使うことなく、引っ越しの折などに捨てられてしまった
のではなかったろうか。

その行李、中国では「荷物」という意味のことばであったとは。
はてさて、それがどうして日本では、あの独特のかたちの
容器を意味したのか。あの容器がそのまま実は中国から伝わったものなのか。
容器は消え、荷物という言葉だけが、中国語に残ったのか・・・。

そんなことをぼんやり考えたことだったが。

最近ひょんなことから目についた、韓国の絵本『ノマはちいさな
はつめいか』(講談社 2010年刊)を見ていたら、最後の頁に、
日本で昔使われていた行李にほとんどそっくりのものが載っていて
驚かされた。そっくりとはいえ、大きさは違う。絵本の中では、
他のものとの対比から、せいぜい25センチ×45センチくらいの
小型の「行李」のように見える。四隅が布で補強してあるところなどは
そっくりで、懐かしい気持ちになった。ちなみに日本の行李は長さが
80センチ、幅4、50センチ、高さ2、30センチはあり、小型箪笥の
引き出しくらいの大きさだった。

『ノマは‥』という絵本は、20世紀の初頭、ソウルに生まれ、朝鮮戦争時に
越北して北朝鮮で活躍した童話作家ヒョン・ドクの作品に、1972年生まれの
画家チョウ・ミエが挿絵を担当しているもの。童話の舞台は1930年代の朝鮮半島、
というから、日本統治下の時代の様相を表していることになる。

でも登場人物の服装や、室内の調度品などは朝鮮に固有のものばかり。
あとがきで訳者はその一つ、白い陶器のおまる(当時、朝鮮ではトイレが
外にあったので、冬季の夜など室内で用を足すためのもの)を紹介している。

だが、小型の行李は、どんなふうに使われたのだろう。日本の行李と
どんな関係があったのだろう。絵本は細部が面白いものだが、
ついいつまでも、小さな行李に見とれていた私でした。
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