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折々の歌人・大森静佳 [短歌]

大森静佳さんの第三歌集『ヘクタール』が発刊された。
大森さんの作歌力の旺盛さに、目がくらむ。
眩めく目をこすりながら読む。

私はきっと、大森さんの良き読者ではないだろうなあ、と
想いながら読む。好きな歌はたくさんある、でもわからない
歌が同じくらいあるからだ。わからない、ということを
どうとらえたらいいのか、と思いながら、悩みながら、読む。

たぶん、これは、大森さんが仕掛けている罠、なのだ、と
想いながら読む。人の心を捉える、しなやかな罠。

まず、「風」をキーワードに読んでみることにする。
冒頭近く
  
 からだのなかを暗いとおもったことがない 風に痙攣する白木蓮
 風というものがこの世にありながらどうしてひとに血ののぼる頬

歌意は? と突き詰めようとするとはぐらかされるような二首。
だが、風の軽やかさが、命あるものの、重さ、痛々しさを
慰撫していくような感覚を受ける。なにより、映像が鮮やかだ。
一首目は、モノクロの映像のなかに、際やかに浮き上がる白、
二首目は、美しい鮮血の赤。巧みな罠仕掛人の手腕を感じる。

 風という民族のため立ちつくす今日のわたしは耳そよがせて
 風の夜 ときおりシベリア鉄道を祖先のような陰翳とおもう

不思議な歌である。一首目には、風の時間を共に生きている感覚、
二首目には、風が持つ距離感を共有している感覚がある。

『ヘクタール』を読み始めて、三週間以上は経つ。
一首一首に厚みがあって、なかなか進まない。読みながら、
考えている時間がとても長くなる。罠にかかっていることを
自ら感じ、快感さえ生まれ・・・。罪作りの大森さん・・・・。




  
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