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文章を書いてきて(その3) [文学]

五年生になると担任が変わったが、やはり女性のK先生。
母の世代で、てきぱきとことを運ぶ気持ちのいい先生だった。
K先生宛に出した暑中見舞いが山形新聞主催の「おたよりコンクール」
で、山形郵便局長賞を受賞する、ということもあった。当時
私は、江戸川乱歩に狂っていて、「夏の暑さに、怖いお話が
もってこいです」などと書いた記憶がある。
思い返すに、小学校時代はとにかく好きで書き散らしていたのだから、
文章と私の蜜月時代だった、といえそうだ。

中学に入ると、状況は一変した。中学校の図書室は普通教室を
図書室代わりにしつらえただけ。おまけに開架式ではなかった。
父の会社に併設されている図書室にも相変わらず出かけていたが、
読みたい本が中々見いだせないようになっていた。

歌人で翻訳家でもある井辻朱美さんは詩集『エルフランドの
角笛』のあとがきに

 ラング童話集やロビン・フッド、アーサー王伝説などが私の書架を
 飾っていた頃、そして、中学生ともなれば、そうした「万能」の物語
 空間を捨て、現実の社会や日常性そのものに目を向けることを期待
 され・・・る頃であったが・・・

その頃にワグナーを聞き始め、詩を書き始めることになった、と
告白されている。ラングの〇色の童話集のシリーズは、私も夢中に
なって読んだ記憶があるが、ワグナーなんて、別世界だった。
童話の世界から追放された私は、父が購入してくれた日本文学全集を
(やむを得ず)読み始めたが、井辻さんが書かれているとおりの
「日常性そのもの」の色濃い世界に、何度も中断することになった。

中学生活は、部活(テニス部)の方が面白く、文章を書くことは
だんだん稀になっていった。小学校の時の文章書きは、ただだらだらと
書き流していただけ。あんなやり方で、なにかモノになる、と
一瞬でも思ったことが恥ずかしい、と感じるようになっていった。

大人の入り口でもある中学生の頃に、好きなものをみつけ、
幼少期からの興味を育てていく方向性を発見された井辻さんが羨ましい。
私は、中学校を境に、ある意味、大きな混迷期に入っていって
しまっていたのだ。振り返って、そう思うのである。

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