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再びの絵本・よるくま [藝術]

現在は、個性的なタッチと色彩で、独特の世界を展開している
絵本作家の酒井駒子。彼女の第二作目の作品『よるくま』。
この絵を見ていると、現在の酒井駒子とは、かなり違うな、
と思いながら、でも実は、彼女の作品の中では一番好き。
絵は、たぶん今の方が数段に上手だとは思うのだけれども。

小さな男の子が、もうとっくに寝ているはずの時間。
ママに声をかける。「昨日の夜、かわいい子がきたの」
まだ起きていたことに驚きながら、この子のママはでも、
「おしゃべりしないで、早く寝なさい! 何時だと思っているの!」
(私はよく言われた)なんて、言わないのである。
「あら、ママ知らなかった。男の子、それとも女の子?」
と、子供の話に乗ってくるのである。「ううん、クマの子」
ごく自然に、男の子のお話に添って、絵が登場する。

そうして、ドア開けて入ってくるときのクマの子の顔。

アトリエの先生とは、この絵本も一緒に見てみた。
先生はいつものように絵だけ見ている。あらすじは
私がそばで教えてあげる。ちなみに私が自分のこの絵本を
アトリエに持ち込むまで、先生はこの絵本を知らなかった。

そして、クマの子が登場する場面にいたく感動した様子。
「う~ん、ここ、よく描けてますね。クマの子の性格が
立っている感じ・・・」

実はこの絵本を購入し、何度も読んでしまった後、雑誌のなかの
記事か何かで、酒井さんがこのクマの子の登場場面を、
絵本の校正刷りが出たあとになって、描き替えた、ということを
暴露しておられた。そうか、それだけ執着していたから、
こんな良い表情のクマの子が描けたんだなあ、と思った。

クマの子はお母さんがいなくなった、と探しに来たのである。
「まま、よるくまってね、よるみたいにまっくろいんだ。
でも、むねのお月さまはひかっている。こんなかわいい
よるくまをおいて、おかあさん、どこにいったの」

絵は、ちょっとゆるいかな、と思える。
でも、文章がすごくいい。クマの子の不安に寄り添う男の子。
その子の気持ちをくみ上げながら、あれこれと質問して、
男の子のお話を引き出してあげるママ。

先生は、いつものように、絵を厳しく見てる。
ところどころのページを指して、
「コラージュっぽく見えますね。良く描けたところを切り抜いて、
背景を描いた上に貼ったんじゃないかな」
う~、そういうこともやっていたのか。最初から意図したのか、
それとも苦肉の策だったのか。

最後から二つ目の見開きへの批判はさらに厳しい。
「ここは色彩的にも、絵柄としてもごちゃごちゃしていて、
頂けないですね。もっとセンス良く仕上げられたはずなのに」

絵本一冊を仕上げるのは、大変なことだ。そして、まだ駆け出しの
作者の迷いや工夫も随所に見られることもまた、私が『よるくま』を
愛してやまない理由のひとつである。
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