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折々の作家・宮沢賢治(その6) [文学]

宮沢賢治が短歌も創作していたことはあまり知られていないようだ。
作品集としては残っていないし、「賢治全集」のなかに収められている
くらいだし。いずれも「改作中」のような短歌ばかりで・・・。
色々と手を加えているうちに、童話や詩の方に心が移っていったか、
と推測される。読んでみてもあまり「賢治らしい」と感じられるところは
少なく。短歌がそもそも、形式からの桎梏が大きく、個性を発揮しにくい
ものであるからか。そして賢治はやっぱり、詩がいい。

「春と修羅」の収められている「永訣の朝」は大好きで、何度も繰り返し
読んでいるうちに、全部そらで言えるほどになったのだけれど。
大学一年の時、一般教養の「近代文学」の授業で、好きな詩を
暗誦するという課題を与えられたことがあり、私は賢治のこの詩を
ばっちり言えるまで読み返して授業に臨んだのだけれど。

人気があるK先生のクラスだったので、毎回百人近い学生が
出席していたのだが、そして自分が当てられるとは思っていなかったが、
なんと、私の名前が呼ばれたのだそうだ! ああ、なんてこと、
「呼ばれたそう」というのは、当日この授業を(月曜日の一限)、
寝坊して欠席してしまったからだ。ああ、残念だった。完璧に
覚えていたのになあ、と今も自分の怠慢を悔やむ。

そんなこともあったせいか、何かあると今も、私の胸の中で、
賢治の一節がひらめく。冷たく透き通った光が胸に差し込んでくる、
そんな気持ちがする。

 ・・・・・・
 うすあかくいっそう陰惨な雲から
 みぞれはびちょびちょふってくる
 (あめゆじゅとてちてけんじゃ)
 ・・・・・・

 ああ とし子
 死ぬといういまごろになって
 わたくしをいっしょうあかるくするために 
 こんなさっぱりした雪のひとわんを
 おまえはわたくしにたのんだのだ・・・・
       「永訣の朝」より『宮沢賢治詩集』(角川文庫)
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