SSブログ

「塔」百葉集 [短歌]

コロナ禍、私の場合はさらに家庭の事情で、十月に入ってからというもの、
遠出はおろか、近出もかなわなくなっている。

相棒に頼み込んで、一緒に「短歌を読む」時間を取ってもらう
ことにした。毎日ではないが。彼の「その気になった時」に。

色々考えたが、一首ずつ異なる作者の作品が一頁にまとまって
掲載されている、というのが便利で、「塔」の百葉集を
テキストに用いることにした。ちなみに、相棒は自分では
歌を詠まず、また自分から歌集や歌誌を読むこともほとんどない。

先ず私が百葉集の一首を音読し、相棒に感想を聞く。
その後で、私がコメントを述べる、という段取りである。
相棒は、文学に親しみを感じているタイプの人間。一番好きなのは
本格推理小説、らしい。それでも、短歌となると、かなり
理解に手こずっている様子である。

 ないあれどまったく起きぬ吾子なれば揺れやむまでを上から目守る
                    岡本潤「塔 2022年1月号」

「え、この『ないあれど』って何のこと?」
「『ない』って、地震のことだよ。地震がおきたんだけれど、って意味」
「え『ない』なんて普通の人、知らないよね? 漢字で書けよ、なあ」

長明の『方丈記』に出てくるんだけど、と言いそうになって、口を
つぐむ。私だって、『方丈記』は、短歌を始めてから読んだ。学生の時は
あの「行く川の流れは」で有名な冒頭しか知らなかったんだから、
知ったかぶりは良くない。いきなりの「ないあれど」は、難しいかも。
と、「普通の人」目線で、歌について考え直す。これは一つの良い機会。

 まつすぐに雪ふりてゐてあなたなのこの世にひとつわたくしの駅
                   國森久美子「塔 2021年6月号」

「え、どういう意味。なんもわからん」
「ええとねえ、これは良い歌なんだけれど・・・」

たぶん「あなた」なる人は亡くなっていること。「わたくしの駅」とは
心の中の駅、あるいは大切な思い出の中の駅のこと。駅とは、人と
待ち合わせるための場所、あるいは出会いの場所。そんなところに雪が
静かに降っていると、「あなた」が遠い日にそうであったように、私を
待っていてくれている(ように思われる)・・・。

説明しながら、やっぱりいい歌だ、と少しうるうるしている私。
額のあたりにおおきな「?」を載せたままの相棒・・・。
「百葉集」を読む、二人の時間。
もうしばらく続けたいんだけれど、相棒は付き合ってくれるだろうか。 
nice!(0)  コメント(0)