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薔薇園で [生活]

学生時代の友人、Pと待ち合わせして、調布の
神代植物公園に出かけることにした。Pの家は、調布まで
30分くらい。我が家からは一時間半かかる。
二人で調布駅前からバスに乗り、公園までは20分くらい。

学生時代の同窓生だから、長い付き合いになる。
Pは、彼女の綽名の頭文字。私の綽名は「フーコ」。
お互いにこの名前でしか呼び合わない。「フーコ」は
ともかく、Pなんて呼び続けていいんだろうか、と
彼女に聞いたことがある。「別に、いいよ」という返事。
それで、私は彼女を綽名以外で呼ぶことはほとんどない。
だが、皆無ではない。たとえば、以前新宿で待ち合わせたとき、
遠くから彼女を見つけた私は、「P!」と呼ぼうとして、
ためらった。つい、周りの耳を気にしてしまって。
あらためて「Nさん」と名前で呼ぶことにしたのだった。
振り向いた彼女は、ちょっとびっくりしたような顔をしていた。

お喋りするうちに公園に着く。今は秋の薔薇が見ごろなんだって、
と彼女が事前に集めていた情報通り、早速薔薇のコーナーへ。
雲一つない、日本晴れのもと、薔薇の名前を確かめながら、
ゆっくりと歩く。

「ここね、小学校の時遠足に来たことあるのよ」
ああ、Pは、このあたりで育ったんだよね、世田谷?
「そう、昔はほんと、のんびりしていて農村の雰囲気が
残っていたわ」
で、S県に引っ越したの、いつなの?
「中学二年」
あ、そうだったんだ。小学校の頃かと思った。
じゃあ、慣れるのに時間かかったんじゃない?
「うん、進学テスト、とか毎週あって、
成績が悪いと体育館に座らされてね・・・」
え!? そんなことさせられてたの?
「ぶたれることもあったわ」
何も返事ができない。
「高校はね、自由な雰囲気で、もう、ほっとしたの」

そんなお喋りの最中である。彼女のスマホに
電話がかかってきたのは。
彼女は、何か低い声で話していたので、
私はさりげなくその場を離れ、薔薇園を巡る。
まるで西洋の公園のような、大きな噴水があるところへ。
すべてが輝くように美しい。薔薇も、水も、彫像も・・・。
そこで写真を撮ったりしていると、長い電話を終えた彼女が近づいてきた。

ああ、なんてことだろう。彼女の身内の小さなひとが、
(まだ二歳)、危篤状態に陥っているというのだ。
彼女はしばらく茫然として、事態を受け止めきれない感じ。
ともかく、私たちは(入場したばかりなのだが)公園を後にすることになった。
こんなこともあるんだ。美しい薔薇の園を見渡しながら、
信じられない思いだった。
「落ち着いたら連絡する」
「うん、また、機会があったら、会おうね」
そういって、別れたのだけれど。
空が明るすぎる、と感じた一日・・・。
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