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折々の作家・江國香織 [文学]

江國香織という作家は、作品を手にするずっと前から
知っていた。新聞の広告欄あたりから、そして、手にとって
読むことになるだろうとは思わないでいた。
著名な文筆家の娘、若くて綺麗、となれば、作家としての
力量より話題性先行で注目されたにきまっている、と、
勝手に思っていたから。

読むきっかけになったのは、映画のせいである。私は
八十年代から九十年代の頃、薬師丸ひろ子が大好きで、
『セーラー服と機関銃』がきっかけだったと思うが、その後、
『探偵物語』とか『Yの悲劇』とか封切られるとすぐ、映画館に
駆け付けたほど。その流れから当然『きらきらひかる』も観た。
で・・・。ちょっとびっくりした。内容が突飛だったので。

何しろ、ひろ子ちゃんが演じているのはアル中。当時、大人気の
豊川悦司はホモの医者。さらに人気が高かった筒井道隆は彼の恋人。
周囲から結婚を期待され、その圧力に負けて、アル中と同性愛の
二人が結婚することになる、という話。

アメリカならごく普通の話。でもこれは九十年代初頭の日本での
映画である。よく制作できたなあ、それもこんな人気役者を揃えて・・。
と、原作をしらべると、なんと江國香織である。

それで、早速本を購入して読みました。そして、やはり
驚いた。これまで私が読んでいた本とはかなり異なっていたから。
文章がとても短い。これは彼女が児童文学を出発点としていた、
ということも関係あるのかもしれないけれど。

「紺くんとセックスするときの話して」
私がもう一度どなると、睦月は玉杓子を持ったままやってきて、
ぼそっと
「機嫌が悪いんだね」
と言った。
「紺くんとセックスー」
わかったから、と言って苦笑し、睦月はまじめに考え込む顔をした。
ええとね。
「ええと、紺はね、紺の背中は背骨がまっすぐで、コーラの匂いがするんだ」
            江國香織『きらきらひかる』

会話とそれをつなぐ短い状況説明だけで、
お話はどんどん進んでいく。章ごとに一人称は、交代するが、
「語り手」は、この三人のみだから、わかりやすく、
読み易い。で、さらさらさらとあっという間に読めてしまう。

基本的には、「驚きの設定」+「気の利いた会話」だけで
成り立っているような小説なのだった。この後、『こうばしい日々』
に収録されている『綿菓子』も読んだけれど、同様の印象だった。
ちなみに坪田讓治文学賞を受賞した、という『こうばしい日々』の
方は、どうしても読了できなかった。この文章を書くために、書棚から
取り出し、読みなおそうとしたのだけれど、やっぱり途中で
どうしても続けられなくなってしまって、放り出すことに。
理由は、どうしても先を読みたい、という気持ちが持続しない、
だらだらと日常が展開されているだけ、と感じられてしまうから。

だが、この後も江國香織という作家は、なんとなく気になり、
紀行文やら、詩集やらも購入して読んだ。ああ、機転が利いている、
こういうところ、思いつけないなあ、と感動することはあっても、
作品そのものに溺れるほど引き付けられる、ということはなく。

今も時々、彼女の著書を手にとる。着想の旨さにうなり、
ちょっとした会話の洒脱さに感動したり。そして時々、途中放棄
したりしながら・・・。特に好きではない。でも目を離せない。
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