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二つのラヴレター?(その4) [生活]

一度も口をきいたことのない同級生から、近況連絡(?)の手紙と、
単行本『豆腐屋の四季』を送られたことを先回書いた。
とにかく礼状だけは出そうと思い、本をパラパラとめくってみる。
どうやら、作者の短歌と生活エッセイの本らしい。

それで、本に対する通り一遍のお礼と、彼が書いてきたように
自分の卒業後について書くことにした。
女子大とM大に受かったが、母親が女子大を勧めるので
そちらに行くことにしたこと、などを書いて送った。
バイトで忙しいことは書かなかった。他人から見たら、ちょっと
みじめに見えるかも、と思ったから。もしかりに大学入試を
失敗していたら、私に浪人などという甘い選択はなかった。

頂いた本を机上に置いたままにしていたら、なんと
母が先にこの本を読み始めた。食事の準備や後片付けも
なんだか適当になってしまっているほど、集中していて、
こっちが驚いてしまう。あっという間に読み終わると
「この本、とてもいいわね。あなたも読みなさいよ」
と、言い出す始末。あまり読書なんかしない母がそうまで
いうのなら、と読み始めたのだが。
私の感覚では全体に
作者の心情暴露に偏り過ぎている、という印象だった。

だが、巻末に付されている、
作者が結婚式に引き出物代わりに配ったという、小歌集にたどりついて、
はっとした。恋の歌、そして叙景歌が、素晴らしくいいのである。
その時、ちらっと思ったのは、X君は私に告ろうとしてくれていたのかも、
ということ。でも、あれだけの手紙では、対応のしようがなく。
彼の方も、何らかのアクションを望むものではなかったに違いない。

お礼状を送った後に、X君から一切の連絡はなく、私もまた、
新しい生活へ向かって心を切り替えていた。
高校時代を振り返ることはほとんどなかったのである。

でも、それから十年後に私は栗木京子さんの観覧車の歌に
触発されて短歌に手を染めるようになった。短歌のリズムが
意外にすらすらと操れたのは、『豆腐屋の四季』の影響も
あったかもしれない。           (この項、終わります)



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