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絵本を読む・さらに [藝術]

自分でも絵を描き始めてから、手元にある絵本をじっくりと
「見る」ようになった。これまでは、どちらかというと「読む」方に
重心をかけていて、絵に対して淡白だった、と気づいたから。

そして、私がおとなになってから初めて手にした絵本が
いわさきちひろ『ひさの星』だったことも思い出した。
本棚の片隅に、もう何年も開かれないままになっていたその本を
手にすると、じわーっとこみあげてくるものがあった。

この本は私の23歳の誕生日に、妹が贈ってくれた本だったのだ。
「誕生祝に絵本?」と、私にはいささか違和感があった。
当時は絵本にあまり興味がなかったことがひとつある。
月並みの礼を言って、ぱらぱらとめくってみただけで、
あまり興味が湧かなかったことも覚えている。
妹にはかなりあっけなく思えたのではないだろうか。

その頃、妹は幼児教育を学んでいて、この本に特に
惹かれるものがあり、私の誕生祝に選んでくれたに違いないのに。

数十年の時を経て、『ひさの星』は少しばかり赤茶けていた。
でも、扉を開いた途端、ちひろの世界がどっと広がる。
大胆な省略と、思い切った筆致。色彩だけで、あるいは
線だけで、茫漠とした形だけで、物語を進める、不思議な力。
それは水彩画の極致、ともいえる技で、少しばかり絵を始めた
私には、本当に神がかったテクニックにも思える。

ストーリーも、不思議だ。ひさのような子供が、本当に
存在するのか・・・。あまりにも非現実的な気もするのだが。
ちひろの技が大方の卑俗な疑問をねじ伏せる。
そんな力を感じさせる絵本である。

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