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父の俳句(その2) [文学]

父から「俳句を始めた」と聞いたとき、父のために喜ぶべきこと、
と思う一方で、あまり向かないかもな、とも思った。
父は四角四面の理科系の人で、そもそも文学に向いていると思えない。
また、母の方が若いころから短歌や俳句に親しんでいたから。
父は、母とは異なる方面の趣味に集中して、母と「棲み分け」た方が、
平和なのでは、とも思ったからである。

果たして、父が作る俳句に対する母の批判は手厳しかった。
「誰かが作ったような、どっかで見たような句ばかりなの」
「私が、こうしたら、とちょっと助言すると何も考えずに
そのまま直して句会に持っていくみたい」などなど・・。
でも、父は吟行で出かけることの方を楽しみにしていたようだし、
「誰に迷惑かけるんでもないから、いいじゃない」と、
母を諫めていたのだけれど。

凡そ、母の舌鋒の鋭さは、まず父に向かい、そして私に向かってくる。
それでも私は、同居しているわけではないから、実害は少ない。
私が父に同情的な発言をすると、母はさらに父に
厳しくなるようで、私はそのうち、父の俳句について
話題にすることを極力避けるようにしたくらいだった。

それでもある時、父は先生に褒められた、と上機嫌で
たまたま実家を訪れた私に、披露してくれたのだが・・・。
残念ながら、私にはさほどの優れた作品とは思えず。
つい「一句のなかに二つの固有名詞を入れるのは、どうかな」
などと発言してしまった。近くの母の耳に届いてしまい
「ほらね、お父さん、娘もそう言ってるでしょ」と、
勝ち誇ったように言われ、焦った記憶がある。(続く)
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