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折々の作家・芥川龍之介 [文学]

一か月半くらい前、図書館の大活字本シリーズの中に、
ミステリー編として「芥川龍之介」が丸ごと一冊収められている
本があり(丸一冊といっても大活字本なので、内容的には少ない)
芥川作品をミステリ、という分野から選ぶのか、と興味を持ち、
借りてきた。すでに読んでいる(『藪の中』など)も収録されていた
のだけれど、なんだかとても新鮮な感じで面白く読んだ。ちなみに
シリーズの中の他のも借りて見たが、あまりピンとくるものがなかった。
芥川って、ほんと、文章うまかったんだな、とあらためて感動し。

先日このブログで書いたけれど、その後に読んだ『夕暮れに夜明けの
歌を』の中にも、芥川の『芋粥』について触れている章があり、
この書も既に読んではいるのだが、何しろ、中学一年の時だったので、
あらためて読んでみることにした。父が買ってくれた河出書房版の
日本文学全集に「芥川」が入っていて、『芋粥』も収められている。

中学生の頃に読んで「まあまあ面白い」と思ったのが、「鼻」とか
「手巾」。すごく衝撃的で、長くうなされることにもなったのが
「羅生門」。それ以外は、ぱらぱらと読んで、さほど面白いとも
思わなかった作品が多かったのだが・・・。

我が家には相棒が購入したちくま文庫の『芥川龍之介全集』
全六巻もある。河出版は重いので、文庫版の方の、未読の作品を
拾い読み始めたのだが、結局第一巻全部をのめり込むように読んでしまった。
ところどころの表現に唸りながら。続いて第二巻も読み始めているのだが。

第一巻には一篇だけ中編に近い長さの作品が含まれていて、とりわけ
心に残った。題名には、難しい漢字が使われている
語源を調べてみようと、もう一度字面を確かめる。裏表紙に
収録作品の題名がずらっと、書いてあるので、あらためて
目次や本編を見る必要はない・・・。ええと、盗人の話で、「喩盗」。
え、こんな字だったのか、とあらためて驚く。こんな熟語があったのか!

中漢和辞典を引いてみると、この言葉は載っていなかった。
ゆとう、で広辞苑を調べて見ても載っていない。いよいよ、
『広漢和辞典』を引くしかないか、と思いつつ、む、待てよ、
と思い直す。本文の頁を開いてみると・・・。なんと!
題名は『偸盗』となっているではないか! 「ちゅうとう」と
カナも振ってあった。裏表紙の題名は、誤植だったんだ!

もし『喩盗』だったら、どんな展開だったろうかな、なんてちょっと
夢想してしまいました。とにかく『偸盗』は、実に暴力的な文章で、
派手な活劇を観ているような一篇だったので。芥川はこんな文章も
書いていたんだなあ、と驚嘆したのでしたが。『喩盗』だったら、
何か王朝絵巻のような、優雅な作品になっていたかもしれませぬ。
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