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原書で読む児童書(その3) [文学]

滞米時に入手して、帰国後にすでに翻訳済みと知った
Helen Cresswell 『The secret world of polly Flint』、最近
本棚を片付けようとして、改めて手に取り、読みなおしてみた私。
英国の児童書の世界の奥深さに改めて感じ入ったところだが。

翻訳版、つまり岡本浜江訳『ポリーの秘密の世界』の方は
どうだろう、と興味を持ち、調べてみることに。かなり以前に
絶版になっているが、市立図書館の書庫に所蔵されていると知り、
リクエストして借りることにした。

手にしてみると、立派なハードカバーで、訳者による丁寧な解説、
四ページ分もついている。あかね世界の文学シリーズ中の一冊らしい。
当時の値段は1200円。この種の児童書に、出版社がかなり
力を入れていたことがよくわかる。ちょっと今では考えられない。
他に全34巻のあかね世界の児童文学34巻についての広告が巻末に
ついている。どの書もあまり耳馴染のない書ばかりだが・・・。

借り出してきた本に、読まれた痕跡は全く、といっていいほど
見当たらなかった。挟まれている栞紐や、読者アンケートの葉書も
まっさらなままで、そのことが痛々しいくらいだったのである。

岡本浜江さんは、児童書の翻訳者としてとても活躍された方で、
訳文は原文にかなり忠実ながら、読みやすい。それでも、
子どもたちの関心を得る、というには遠かったようだ。

一つには、挿絵もよくないのではないか、と思える。
この書の挿絵は原書版を使わず、日本の画家がオリジナルな
絵をつけているのだが・・・。原書の挿絵の、シャープな線描画を
見てしまった者(私が当初関心を持ったのも、この絵のすばらしさが
かなり大きかった)には、なんとも雑駁で投げやりな絵、という印象が
してならない。日本の児童書の挿絵は、かなりいい加減なものも
多い、という印象は以前からあったけれども。子供の関心を引く、
その最も大きな入り口は、表紙の絵や本文中の挿絵にあるだろうと
思うと、ちょっと残念な絵なのだった。

他には、やはり文化の違いということが大きいだろう。
うっそうとした森、その中に開く野生の花々、静かな湖。
そうした身近な自然に日常的に接しながら暮らす子供たちが
とても少なくなっていること、また、イギリスでは冬季が長い。
寒さが厳しく陰鬱な冬がようやく終わって、
やがて明るい春、初夏へと向かう季節には、多くの人が外に出て
あたたかい日差しを楽しむ。その象徴となる五月の柱
(May pole)やその柱の回りで踊る、五月の踊り、などへの
知識がなく、雰囲気もわからないことなどがあるだろう。

出版されたイギリスと同様、日本でも小学校高学年向き、と
されているが、その年ごろにはかなり難しい本だったかもしれない。
特に、世界の国々からの情報が今よりずっと少なかった八十年代前半では。

対比しながら読んでみて、いろいろなことを考えさせられた一冊だった。
                  (この項、終ります)
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