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原書で読む児童書((その2) [文学]

英国には児童受けの幻想的文学の流れが脈々とあって、例えば、
『ピーターパン』『不思議な国のアリス』『くまのプーさん』
『ピーターラビット』『秘密の花園』『メリーポピンズ』などなど、
枚挙にいとまのないほどである。その根幹には、『マザーグース』
という、何とも豊かな詩歌の世界があるように思われる。すべてが
この膨大は詩の世界の影響を受けていると言えないのは勿論ではあるが。

Helen Cresswell 『The secret world of polly Flint』もまた、
詩を愛する少女が登場し、彼女が折々に詠む詩が、物語を動かす
一つの歯車になっているあたりは、イギリスらしさを感じるのだが。
他の幻想文学との違いは、かなり現実に根差した描写が多いこと。

夢見がちながらも、活発なポリーは、家事のやり手である母からいつも
「Polly, do’nt!」と叫ばれ続けている。ポリーがドアを勢いよく音を立てて閉めたり、
テーブルの底を蹴り上げたりするからだが、ポリーは自分の名前は
「Polly Flint」ではなく「Polly do’nt」なのではないか、と嘆くほど。
(このあたり、発音の類似性が面白いのだが、訳すと「ポリー、やめて」
になってしまって、面白みがなくなってしまう、残念なところ)

ポリーの空想癖に対し理解を示す父親は、炭鉱に勤めていて、ある夜、
落盤事故にあい、大けがを負う。そのために一家は一時、ポリーの
母の、十歳年上の姉、エムおばさん宅に身を寄せることになる。
おばさんの家の近くの森の中で、ポリーは次々に不思議な体験を
することになる。ポリーはこの森と近くの湖一帯を「ポリーの王国」
と名付け、自分をその国の女王と自称して、探検を続けていく。

ざっと紹介すると、こんな話になる。
本文中の、王国の挿絵を見ながら、ポリーと一緒に不思議の世界に
分け入っていくことは、なかなか楽しいのだが。

物語は先述したように、現実的な部分も相当挟み込まれていて。
特にエムおばさんの、異常なほどの清潔好き、たくましい生活力は、
幻想性との対極にあり、ちょっと、驚かされる。ファンタジーを
読んでいる、という感覚に埋没していると、肩透かしを食らうのだ。

その点で言うと、jumbleという言葉の意味がうまく理解できなくて
困ったことだった。前後の流れから、どうもjumbleとは、蚤の市、
のような、不用品販売会のような雰囲気のイベントのようなのだが、
買う、とか、売る、に相当する単語は一度も出て来ず、必ず
collecttという動詞しか現れない。イギリスには不用品を家の前に
並べて置いて、「必要な方はどうぞ」と譲り合う日があるようなのだ。
それがJumble(がらくた)の日、らしい。

生活力に富んだエムおばさんは、子供の頃に自分が乗っていたという
(そうとう古いはず)大きな乳母車を引っ張り出してきて、これに
必要なものを積んで帰る、と言い出すくらいだから。

ファンタジーと思っていると、なんだか驚くような現実的な
描写が出て来て、ほんと、驚かされる。でもこういう面も、いかにも
イギリスっぽくて(かなり物を大切にする人たち)、納得できる。
(この項、続きます)
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