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『英語の歴史』 [読書]

寺澤盾『英語の歴史』(中公新書)。だいぶ前に購入し、
そのまま書棚に収めて、忘れていた。たまたま見つけて、
読み始めたら面白くて、一気読みしてしまった。
英語は沢山の外来語を含んでいて、そのために
綴りや発音が複雑になっている、とは知っていたが。

英語に刻み込まれた歴史が、エピソード的に綴られていて、
新書として向き合う読者に、読み易いように配慮されている。
その個々の例が身近で、読んでいて楽しいのである。

たとえば、英語では、動物の名前と、それが食肉化された
場合の名称とが、異なっている例が多いのだが。

豚(pig swine)が豚肉( pork)、牛( ox cow bull)が牛肉( beef)、
羊( sheep)が羊肉( mutton)、となる。私は、さすが、
狩猟民族、長い食肉の歴史を持っている民族は、言葉も使い分けて
いるんだな、と思ってきたのだが。

この動物名と食肉名の使い分けには、イギリスという国家の歴史が
刻まれているのだった。十一世紀、イギリスはノルマンディーの
公爵ウィリアムに王位を奪われている。いわゆるヘースティングズの
戦いに敗れ、二百年ほど、征服者の言語である仏語が公用語と
なるのだった。

多くのフランス語が英語に入り込み、特に食文化において
イギリスよりはるかに洗練されていたフランスは語彙も
豊富で、たちまち英語化した、という。porkや beefなどは
もともとはフランス語で、英語にとっての外来語だったのである。

アメリカで生活し始めたとき、スーパーの中の食肉店で、
豚肉を買う時、つい「pig」と言ってしまって笑われたことを
思い出す。

数年前、韓国の釜山へ観光で出かけた折、
街角の看板を見て、ちょっとぎょっとした。外国人向けに
英語で書かれていたのだけれど、メニューの一番上に大きく
「rice in pig soup」とあったからである。

釜山の名物料理、テジクッパ(豚肉入のおじや)を英訳したものと
思われるが、もちろん「rice in pork soup」と、すべきところ。なんだか、
生きた豚がスープの中を、ご飯と一緒に泳いでいるような
光景を思い浮かべてしまったのだった。
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