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折々の作家・岡野薫子 [文学]

今も定期的に放映されているのかどうか、知らないが
「欽ちゃんの仮装大賞」は、ごくたまに見ていたことがある。

大勢が出場して迫力で迫ろうとするものとか、一人で演じるにせよ、
何かこまごまと寄せ集めて演じるような仮装にはあまり
面白いものがなかったような記憶があるが。

そんななかで、短く、そして鮮やかに、①場面を切り取った
ような作品に、思わずうなってしまうような、シャープで美しい、
とさえ感じられるような「仮装」(つまりは「仮想」?)が
登場して、長く心に残る作品になっていたものも、少ないが
確かに記憶している。おそらくそう感じさせる条件は、少なくとも二つ。
映像的であること、そして意外性である。

岡野薫子にも、そんな作品があり、長く心に残っている。

彼女の代表作と言えば『銀色ラッコのなみだ』とか
『ヤマネコのきょうだい』とか、中編の動物もの、というイメージが強いが。

仮装大賞の傑作と結びついて思い出される作品は、
「白いハト」と題された、ほんの4ページの短編である。

  「あの子はほんとに、ハトをだすつもりなんだ」
  手品師は、胸がちくりといたくなりました。
  ただのきれなんだよ、そういうには、もう、おそすぎます。
  でも、歩きながら、ふりかえらずにはいられませんでした。・・・

  ちょうどそのとき、男の子が、夕焼けの空へ、
  真っ白いきぬのハンカチをとばしたのです。
  ・・ひろがりながらはばたいて、いつのまにか・・・
         岡野薫子「白いハト」『ファンタジー童話傑作選』

この展開に、息を呑んだ記憶がある。岡野薫子の作品は、ほかにも
いろいろと読んだし、読んだ時はいいなあ、と感動もしたはずだが、
覚えているのはこの「白いハト」だけなんだった。
今も時々思い出し、夢想してみる。
ぼさぼさの頭の、一人の孤独な少年が、そっとハンカチを広げ、
白いハトを空に飛ばす様子を。



  

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