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岩城けい・続 [文学]

岩城けい『さようなら、オレンジ』は、紛争下のアフリカ
から、二人の男児と夫と共に豪州に逃れてきたサリマが
当座の主人公として登場する。母国でほとんど教育も受けていず、
英語も話せない彼女は食肉工場で家畜の解体をしながら、
英語の学校に通い出す。そこで一人の日本女性サユリと知り合う。
髪の毛が黒くつんつんしている彼女を、サリマはこっそりハリネズミと
名付けている。サリマから見た、サユリの特徴が、つまり
異国で日本人がどう見えるか、がかなりきっちりと描かれる。

その展開の途中、ところどころに活字の字体も異なる、
「ジョーンズ先生」という結構長い書簡が挟み込まれている。
そしてこれは、サユリが英語の恩師宛に書いている手紙らしい、
ということ、サユリはこの恩師の勧めで、小説を書こうとしている
らしい、ということが分かってくる。

小学校さえ通っていないサリマ、大学まで出ているサユリ。
だが二人とも、この広大な、異文化圏のなかで無力感にさいなまれ、
たびたび、生きる気力を失いそうになるのである。
他にも二人の周りには、異国から来ている様々な女性たちが登場し、
それぞれの生き方が二人の視線から描き出されるのである。

先回触れたように、朝日新聞の「折々のことば」に、鷲田清一氏が
小説の中の一節を二度、紹介されており、そのことばからも、
この小説の雰囲気はつかめると思う。
救いは、二人ともこのオーストラリアという巨大な地に
しっかりと根を下ろして生きようとしていること、その意思的な
姿が大地を染める太陽の光の中に映し出されていること。

日本にもここ二十年くらいの間に、急速に異国からの定住者が
増えてきている、と感じる。でも、日本は彼らに対してどう
向き合えばいいのか、国としての態度があまりに曖昧ではないか。
とりあえずは、無償、あるいは格安で日本語を学ぶ場を用意する
ことが必要なのでは・・・。
岩城けいの小説を読んで、さらにその思いが強まった。

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