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世界の都市を詠む [短歌]

横浜歌会では一年に四度、題詠を行う月を設けていて、
11月はその月に当たる。会員のMさんが出題を引き受けてくれて、
お題はナンと「世界の都市を詠む」(国名ではだめ、とのこと)。

私は、これまで訪れた都市を思い出しながら、何首か作った。
大連、北京、ソウルなどのほか、オスロ、パリ、ロンドン・・・。

ガハマルカ、とか、住んでいたことのあるアメリカのローリー、
韓国の水原(スーウォン)なども考えたのだけれど、結局
上手く作れなかった。やはり、読者を意識してしまって・・・。
あまり知られていない場を詠んでも、理解されないのではないか、
と気になったのである。みんな、どこの町を詠うのだろう。

歌会当日、ワクワクしながら配られた詠草を見ると・・・。
なんと、これまで聞いたことのないような、未知の町の名前が多数あった。
たとえば、タクロバン。これはフィリピンのレイテ島にある
町の名らしい。アルゴンキンはカナダ、スフバートルはモンゴル。

知らない町でも、すぐにスマホで検索できる状況にあるので、
何処のどんな町なのか、おおよそのイメージをすぐに組み立てる
ことができる。いや、もしスマホがなくても、都市名の語感や
作者が選んだ言葉から、想像することは可能だったことに驚いた。

その点、自分が訪れたことのある町、あるいは
テレビなどで報道される頻度が高く、日常的になじみのある町より、
全く知らなかった町を詠んだ歌の方が、なにか不思議な魅力が生れ、
引き付けられる歌が多かったことに驚いた。

きっと、ほかの参加者もそうだったのではないだろうか。
最大得票を得たのは、スフバートルを詠んだ歌だったし、
一票しか入らなかったが、タクロバンを詠んだ歌は、
後から思い返すに、かなりの秀歌だったと思うのである。

スフバートルは、ロシアとの国境の町で、作者はキリル文字が綴られた
平たい駅舎を詠まれていたのだが、国境の町であること、もとは
他国の文字だったキリル文字が使われるに至った歴史的経緯なども
感じさせ、少ない情報の中にしみじみとした哀感が漂ってくる歌だった。

タクロバンの歌は、口中を赤く染める飴をなめながらバスに乗り合せている、
という歌で、現地の交通事情の悪さや、着色料たっぷりの少し懐かしい
お菓子の感覚が詰まった作品だった。異国の町の旅に、日本のかつての
町の雰囲気を感じさせるような、作者の手腕に脱帽した。

歌会が終わった後、「みんなが知らない町は詠えない」と思い込んでいた
自分の浅はかな考えを反省した。
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