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大根は夜の電柱に [短歌]

近くのクリーニング店に頼んでいた衣料を取りに行ってきた。
帰り道、住宅街を歩いていると、高さ六十センチくらいの塀の上に
葱が一本、横たえてあった。真っ白い葱の肌がまだ瑞々しく、
誰かが買い物帰りに落としていったものを、気づいた人が
塀の上に載せてあげたのだろう。ちょっと、可笑しい。
たちまち、あの一首が脳裏に浮かんだ。

 大根を探しにゆけば大根は夜の電柱に立てかけてあり
               花山多佳子『木香薔薇』

もう花山さんの代表歌の一首になってしまった。くちずさむたびに、
ふっと笑ってしまうし、最近はこの歌を思い出す場面が増えた気がする。

車で数分のところにあるスーパーを普段利用しているが、ここの
駐車場は広く、三階と屋上と、屋外の平面駐車場とがあり、全部で
百台くらいは停められそうなのだが、数年前までは、特に週末は、
駐車スペースを探さなければならないほど、混みあっていた。

ところが、この三、四年、たぶんコロナが契機にはなったと思うが、
いついっても、駐車場は、スカスカである。買い物客は減ってはいるが、
それでもレジ待ちしなければならないくらいの客はいる。たぶん、
老齢化などによって、車を手放すひとが増えたのだろう。

そうしたこともきっと影響していると思うが、ちょっとした用事で、
街を歩くと落とし物が、結構目につくようになったのだ。
買い物カートを引いて帰る途中に、つい落としていってしまうらしい。
先述した葱は、きっとばら売りで買った葱を一本だけ落としてしまった
のだろうが。

先日は、歩道に厚揚げらしきビニールに入った食品が落ちていた。
「二割引き」の赤いシールが貼ってあって、ちょっと身につまされた。
帰宅してから、気が付くんだろうけれど、食事の支度に大きく影響
しないように祈る。

スーパーから我が家の方向への道は、坂道になっていて、途中は
歩いて見るとかなり勾配があってきつい。その途中に、胡瓜が
一本だけ落ちているのを見たことがある。河童が落としたのかな、
なんて、想像してしまった。

一番不思議だったのは、やや大きめの箱入りの、亀のえさ。
これくらいの大きさだと、落ちたときにわかりそうなもんだが。
その線で行くと、大根もそうだ。落ちたときに気がつかないって、
いったいどういう状況だったんだろう、と考えてしまう。
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