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岩城けい・さらに [文学]

岩城けいの第三作『Matt』は、前作『Masato』の続編に
なっている。十一歳で家族と共に渡豪した真人が、ワトソン校に
(地域の有名校らしい)にEAL(第二言語が英語、つまり外国人枠
みたいな感じ)枠ながら奨学生として入学し、まさに青春の入口へ、
というところから、物語が始まる。

ワトソンには劇(ドラマ)の授業も選択できるらしい。
真人は自分をマットとして自己紹介する。その場面がとても
ユニーク。受講生が教師の用意する小道具の中から、自分の
名前とイニシャルが同じ道具を取り上げ、音楽に合わせて
順番に自己紹介するのである。真人は、仮面(マスク)を選び、
それを顔に当てながら(そうすると何者かに変身できる、そんな
歓びも表明しながら)「自分はマット、マスクのM、マスクを持ってる
マット」と皆に呼び掛ける。ところが・・・。

ドラマのクラスに、もう一人のマット(マット・W)がいたのである。
彼はダーウィンからの転校生。ダーウィンは、太平洋戦争時、
日本が侵略して暴虐にふるまった地である。そのことを
祖父から聞いてきたマット・Wは、マットを目の敵にし、
「ジャップ! そんな顔で、何がマットだ。日本へ帰れ!」
と激しくののしり、時に乱暴を働いてくる。だが彼はその他の
同級生たちには穏やかにふるまい、またかなりのイケメンとあって、
皆の人気者になっていく。マットには、波乱万丈のワトソン生としての
始まりだった・・・。

自分は日本人。でも、戦時下に蛮行を働いた日本人とはちがう。
日本人である前に、一人の人間なのに・・・。そしてこの
オーストラリアで、英語を使って生きていこうとしているのに・・。

前作の『Masato』は、いじめは受けていてもどこか子犬がじゃれ合う
ような、のどかさがあった。児童文学的な優しい文章がそうした
雰囲気を醸し出してもいた。だが『Matt』は、同じ一人称ながら、
いかにも高校生が話していそうな、激しく、猥雑な言葉が
登場人物たちから噴出。青春の猛々しさが炸裂する、といった
筆致になっている。

日本はこれから、ますます多くの異国の人たちが流入してくるだろう。
それは否応なく・・・。マットと同じような経験をする人たちが
今もあちこちにいるに違いない。『Matt』は、日本に住む多くの異国の
人たちの心情を考える時の、一つのヒントを与えてくれそうな気がする。
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