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天才ヴァイオリニストと消えた旋律 [映画]

WOWOWで放映されていたものを録画して観た。
監督は「レッドヴァイオリン」なども手掛けたフランソワ・ジラール。
音楽にまつわる映画となると、途端に食指が伸びる私。楽しみに
見始めたのでしたが・・・。

時系列が何度も飛ぶので、当初はかなり混乱した。
天才と期待されたワルシャワ生れのユダヤ人、21歳のドヴィドル。ロンドンでの
デビューコンサートをすっぽかし失踪してしまう1951年の場面から始まる。

舞台は何の前触れもなく切り替わり、ヴァイオリンの修行のためポーランドを離れ、
ロンドンにやってきたたドヴィドルと兄弟のように育つ、寄宿先の息子、
マーチンの35年後へと飛ぶのである。彼は音楽の審査員の仕事をしていて。
ある少年の演奏を契機に、マーチンはドヴィドルを捜す旅に出る。
その旅と、マーチンが初めてドヴイドルと出会う1938年当時のエピソードや、
1950年代初頭のエピソードなども挟み込まれ、筋を追うのがかなりきつかった。

とはいえ、ヴアイオリンの演奏がところどころで披露され、
その旋律が素晴らしくて、私はこれを聴けただけでも満足した。
演奏を担当したのは、レイ・チェン。

失踪の秘密は、マーチンの「ドヴイドル探し」の旅の中で、
次第に明かされていく。ドヴィドルは、ナチスの手にかかって
行方知れずになったままだった家族を捜し続けていたが、
コンサート直前に、彼らの死を知ってしまったこと。
自分の音楽修業を全面的にサポートしてくれた両親と、まだ幼い姉妹。
彼は絶望のどん底におとされていたのだった。


マーチンに捜し当てられ、身勝手な失踪を厳しく非難されたドヴィドルは

命じられるまま、35年前に予定されていた通りのコンサートで演奏することを
渋々ながら受諾する。さて、弾けるのかどうか。マーチンは懐疑的にならざるを
得ないのだが。

ドヴィドルの演奏の腕は衰えていなかった。彼はたったの二週間の復習で
コンサートに間に合わせ、35年前のプログラムと同じ
ブルッフのヴァイオリン協奏曲一番を見事に演奏して喝采を浴びる。
同じく35年前に二曲目に予定されていたのは、バッハだったが。
彼はここで、全く異なる曲を披露するのである。

それは、ユダヤ教会で、自分の家族が殺害されていたと知る、
その場面で聞いた旋律である。ユダヤの人々は、ナチスに殺害された
人々の名前を旋律にして伝承していたからだった。この旋律がまた、
物悲しくて、すばらしく弦楽器に合う響きだった。

この映画の原題は「The song of names」である。
邦題はいったい・・・。

最後のドヴィドルの台詞が印象的である。

 「個」を捨てた私は、アーティストではない。
 コミュニテイの一員として、信仰、歴史、価値観、記憶を
 共有する生き方を選んだんだから。

ナチスにまつわる映画は、これからも作り続けられるのだろう。
戦後七十七年半を経て。もう、映画のネタの宝庫のようにも思えてしまう。
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