SSブログ

男性の立ち位置 [生活]

もう、何年か前のことになる。
いつも利用しているJRの駅での出来事。
ICカードにチャージしようとして、自動券売機のところへ
歩み寄ると、六歳くらいの少女が、まさに切符を買おうと
しているところだった。硬貨を二枚入れ、しばらく
あちこちを探るようにみているが、払い戻し釦を押す。

あれ、間違えたのかな、と思うとまた同じ動作を繰り返す。
一歩くらい離れた左後ろに若い男性が立っていた。
父親にしては若すぎるし、家族という雰囲気はないが。
それとなく少女の様子をうかがっている感じ。

私は隣の券売機が空いたので、そこで用事を済ませたのだが、
少女は同じ動作を繰り返し、男性はその場を動かない。
他にも空いている券売機はある。男性は少女のことが
気になっているのだろう。ではなぜ、黙って立っているのか。

私は少女のそばに近づいて、声をかけた。
「どこに行きたいの?」
少女はすかさず、「〇〇」と隣の駅名を告げる。
「それなら、140円だよ。このボタンを押すの」
「あのね、帰りの切符もいっぺんに買いたいの」
「ああ、往復切符?、だとすると280円だよ」
少女は掌を開いて、握っている硬貨を見せてくれた。
「150円? あ、それじゃ足りない・・・」
と呟いたところで、脇に立っていた男性が、低いけれど
しっかりとした声でこう言った。
「こどもりょうきん」
子供料金か、忘れてた。子供料金なら半額だから、
140円で買えるんだった。券売機には子供用の往復切符を
買えるボタンはなかったので、片道ずつ買うように、と
少女に告げた。よかった、子供料金を指摘してもらえて。

お礼を言おうと思って振り返ると、男性はもう
その場を立ち去ってしまっていた。

その男性が少女から少し距離をとったまま
立ち続けていたのか、後から理由がわかってきた。切符が買えなくて
戸惑っている少女のことが気になりながら、近づいて声をかけるのが
躊躇われたのだろう。親切そうに振舞いながら、実は邪な下心が
ある男に見られたら、と怖れたのではないだろうか。

女である私は、少女に近づきやすい。そういう人が
声をかけてくれるのを待っていたのかもしれない。
男性も生きにくい社会を生きているんだなあ、と
ちらっと思われる一事ではあった。
nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0