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猫、怪談風 [生活]

子供の頃、放課後に捨て猫を拾って帰り、叱られたことが
何度かある。小学校三年生の時、やはりだめだろうと思いながらも
見捨てて置けなくて、持ち帰ったことがあった。十一月下旬のことで
当時住んでいた東北の町では、寒さも厳しくなる頃で、みぞれ交じりの
雨も降っていたことが、よけい見過ごしにできなかったのだ。

案の定、母はヒステリックになり
「元の所へ、返してきなさい!」の一点張り。仕方なく抱きあげて
表に出ると、隣家のAさんの奥さんがちょうど家の外に出てくるのが
見えたのだ。私はこの隣人は、苦手な方だったのだけれど(いつも
不機嫌そうで、小さな息子を叱ってばかりいたから)、もう、藁をも
掴む気持ちで、「おばさん、この猫、飼ってくれない?」とお願いしていた。

Aさんはお相撲さんのように太った女性だった。右手の掌に、まだソフトボール
程の大きさしかない猫を載せ、しげしげと眺めていたが、いきなり、まるで
砲丸投げのように右手を後方へ持っていき、そのまま何も言わずに、
垣根の向こうへ、猫を投げ捨てたのだった。垣根の向こうは、幅数メートルの
砂利道、そしてその向こうに、向かいの家の垣根、向かいの家の庭。

小さな猫はどこまで飛ばされたのだろう。ケガしてしまったのではない
だろうか。私はAさんの無言の暴挙にすっかり縮み上がってしまい、そのまま
家にかえったのだった、猫のその後を確かめることもできずに・・・。

ところで、昭和中期の当時、田舎はほとんどが汲み取り式のトイレだった。
雪国では、11月に入ると、汲み取り業者が来て、トイレの汚物槽を綺麗に
していく。雪が消える四月の下旬まで、汲み取りができないからである。

翌年の四月、例年通り汲み取り業者が訪れた後のこと。学校から帰ると
母が厳しい表情で、こう告げてきた。
「あなたが拾ってきた猫、もとの所へかえしてこなかったのね。
さっき、Aさんが家に見えて、おトイレの汚物槽から子猫が
出て来たって、言いにきたのよ」

私は震え上がった。垣根の向こうまで放り投げられた猫は、Aさんの家に
潜り込み、トイレに落ちてしまった、ということだろうか。
あるいは、捨て身の復讐?
以降、私は捨て猫を拾って帰ることはやめようと、決心したのだけれど。

先月、糸魚川の兄の家を訪れると、猫好きの奥さんが、保護猫を三匹も
飼って世話している様子を見て、子供の頃のあの一件を思い出したのだった。
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