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はるかなる児童書 [文学]

もう三十年くらいも前の話になる。相棒がいきなり
「『揚子江の少年』っていうお話、知らない?」と
訊いてきた。私は全く聞いたことのない題名だった。
「面白くて、大好きだった。確か、文学全集の中の一冊で」
彼はその後、中国からの留学生たちに尋ねまわっていたが
誰からも「知らない」と言われ、落胆していた。翻訳書だろうし、
作家名を忘れてしまっていては、手掛かりがないのだった。

私たちは知り合った頃から、子供の頃に読んだ物語について話をする、
ということは多かった。例えば私が
「『魔の913号室』って、あったよね?」
と訊いたときは、相棒も知っていて、ストーリーについて
あれこれと批評し合ったこともあるが、図書館で探して再読しようとしても
題名が少し違っているのか、そういう本は見つからない。

インターネットが普及してくると、検索が驚くほど簡単になり。
相棒が探し続けていた『揚子江の少年』については、詳細が判明した。
エリザベス・ルウィスという西洋人が、1933年に著した書で、日本では
講談社の世界文学全集の一冊として、1954年に発刊されていた。
揚子江の上流、重慶市近くに住む貧しい少年が、銅細工師の徒弟となり、
成功していく、というストーリーらしい。

私が子供の頃、確かに読んで、心に残っている小説のなかに、いまだ
作者名や発行先のわからない書がいくつかある。先回のこのブログでも
触れた『鼻ききマーチン』もその一つ。赤い表紙で、確か学研の翻訳書
ばかりを集めた全集の中のひとつだったと記憶するのだけれど。
調べても、みつからない。他にも『鉛筆の秘密』という推理小説も
読んだ記憶があるのだが。

『鉛筆の…』は、主人公(英語が母語だったと思う)が麻薬の密売人を追いかけて、
フランスへ行く、といった話だった。内容はもうほとんど覚えていないのだが、
フランスに来たからには「コニャック」を呑まなければ、とバーに入って
注文しようとするが、なかなか通じない。「コンニャク」みたいな発音で
ようやく通じた、という箇所だけ、覚えているのだった。蒟蒻によく似た名前の
お酒って、どんな味だろう、と思った。小学三年くらいの時のことである。

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