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『82年生まれ…』 [文学]

一年に三度、家から一時間ほどかかる大きな病院に通院している。
いつも混むので早めに出かけるのだが、先日は交通の便もよく
早めに着いた。少し早めでも受付の人によってはすっと通して
くれる場合もあるのだが、この日は「11時の予約ですよね、
5分前に来て下さい」と突っ返されてしまった。とほほ・・・。

それで一時間近く時間が空いてしまったので、院内の書店へ行き、
あれこれと眺めていると、文庫本の棚に『82年生まれ、キム・ジョン』
(齋藤真理子訳)を見つけた。少し前に評判になっていて、注目しては
いたのだが、まだ読んでいなかった。それが最近、文庫化されたらしい。

早速購入して、待合室で読み始める。一才の娘を育てている33歳の
女性、キム・ジオンが主人公なのだが。この名前、日本で言えば
鈴木良子さん、みたいな感じで(かなり昭和っぽいが)、ごく普通の
どこにでもいる女性の名らしい。彼女が何やら幽体離脱、みたいな
喋り方をするようになって、夫を驚かせるところから話は始まる。

そして韓国の女性たちの置かれてきた立場がいかに悲惨で、屈辱的な
ものであったのか、が、具体的なエピソードと共にじょじょに
語られ始める。私は1987年2月から4月上旬にかけての二カ月、
韓国に住んでいたことがあるので、日本同様、いやそれ以上に
酷い男尊女卑の状況を見聞きしてはいたのだけれど。
日本の女性に比べて、韓国女性たちは気性が強くて、
周囲の抑圧に唯々諾々と従っている、という感じはしなかったのだが。

驚いたのは90年代に入ってまでもまだ、女児を懐妊したと知ると、
堕胎せざるを得ないような、家族からの圧迫があったということ。
実際、九十年代前半には、特に三番目の子どもの男女比は、
男児が女児の二倍以上だったのだそうだ。女児の出生が抑えられて
いたのだから、現在の韓国で出生率が1未満という驚異的な数値に
なっていたとしても、当然の話ではないか。

検査を挟んで、すぐにまた読み進め、一気に読んでしまったのだが、
色々と考えさせられる、ずしりと重い内容の書だった。

その夜、何となくかけたラジオのNHK第二放送で。「文学の世界」
という番組が流れ、テーマは「弱さから読み解く韓国現代文学」だった。
「あれれ・・」と思う間にこの『82年生まれ・・・」にも触れながら、
話をしているのは、翻訳家の小山内園子氏だった。『82年生まれ・・」の
作者チョ・ナムジュの作品『彼女の名前は』などを翻訳している人である。
ちょっとした偶然に驚きながら、社会的弱者よる韓国の現代文学の実情に
聴き入った。ここでは「弱さ」が積極的に肯定されているようなところが
ちょっと、気になったのだけれど。
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