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梨のはなし [食文化]

子供の頃、山形県南西部で暮していたが、九月の中旬を過ぎると、
新潟県新発田市近辺からトラックで「梨売り」がよくやってきた。
我家ではまとめて10個ほども購入するのだが、母親に
「少し寝かせてやらないと食べられないのよ」
と言われていた。そして
「米櫃に入れておくと、早く食べごろが来るわよ」とも聞かされた。

お米の力が、梨を美味しくするのかな、と思っていた。
それから3~4日すると、食卓に並ぶようになる。歯に吸い付くように
ねっとりと甘く、香りも良く、梨の季節が楽しみだったことを覚えている。

中学卒業後、東京へ引っ越したのだが、秋口に果実店に並んでいる
「梨」を見て驚いた。形が違う、色がちがう、味が違う、歯応えが違う!
概して、じゃりじゃりして美味しくない、ああ、あの美味な梨は、
東京にはないのか! と残念至極に思ったのだったが。

まもなく、私が食べていた梨は、東京では「洋梨」と呼ばれていて、
普通に呼ばれている「梨」とは品種が異なるのだ、と知った。
子供の頃私が食べていたのはバートレット種の洋梨で、
しずく形をしている。収穫後しばらく追熟させてから食べ頃に
なる、という点でも、和梨とは大きく異なる。

バートレット種の梨は東京ではなかなか見つけられずにいるうちに
山形産のラ・フランスが登場するようになり、洋梨といえば
一時はこちらだけを指す、というような時期も多かった。

最近スーパーで、プレコースという新たな品種の洋梨をみつけて
購入してきた(まだ追熟中で、食べ頃を待っているところ)。

三年余り前、施設の母を訪問し、おしゃべりしていた時、新潟の
洋梨の話になった。いつも、追熟を待たされたよね、ということになり。
「米櫃に入れると早く美味しくなる、って言ってたでしょ。
私も時々やってみてるよ」
というと、母が笑い出した。
「子供は食べたい食べたいって、せがんでくるからね。
見えないところに隠していただけよ」
と言われ、大笑いすることになった。ああ、半世紀も
騙されていたんだった・・・。
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