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本の虫(その6) [読書]

アメリカの図書館に通い出してまもなく、書棚の一角を
どーんと占めている「Nancy Drew Mystery Stories」が
目に入った。シリーズ全体で百冊近くにも及んでいる。
文章がきびきびとしていて展開が早いこと、舞台が広い牧場だったり、
古い大邸宅だったりと、魅力的な場面が用意されていることなど、
なかなかおもしろくて、たちまちとりこになった。
読者の対象年齢は10~12歳くらいだろう。主人公の女性探偵、ナンシーは
十代後半。読者と主人公の年齢差は気になったが、日本でも人気が
出るのでは、と思えた。図書館で借りて読んだ後、特に面白かった
十数冊は書店で購入し、自分で翻訳してみた。

この本を手にしていると、アメリカ人は必ずと言っていいほど、
声をかけてくる。「ああ、その本、懐かしい、子供の頃、
何冊も読んだ」とか、「ああ、私のお気に入りはね・・」
と、シリーズの中の数冊を推薦してくる人もいた。
男性の多くは、
「The Bobbsey Twinsの方に夢中になったよ」と言う。
同じ出版社から出されているシリーズで、こちらはやや
年少の子向き。二組の双子が活躍するミステリーである。

帰国すると間もなく、私は自分で訳したナンシー・ドルーの
小説を出版社の人に見てもらった。今ならインターネットがあるから、
世界中の本を簡単に入手でき、また、それらがどこで翻訳出版
されているかも、一瞬で調べることができる。でも、当時は
こんなことが容易ではなかったのだ。私が持ち込んだ出版社の人も、
最初は乗り気だったが、「調べたら、このシリーズの幾つかは
他の出版社からすでに出てますね」と言い出した。
たまたま訳した一冊が、子供の頃一時夢中になって読んでいた
「少女名作シリーズ」(偕成社)に入っていた、と知ったときは愕然とした。
ああ、あの時、シリーズの全部を読んでいたらなあ、と
つくづく思ったことだった。

それでも、たくさんあるナンシーシリーズのこと、
訳されていないものもある。日本で訳されていない、面白そうなものを訳して
見せて下さい、と言われて、とりあえず、出版されていないものを
翻訳して読んでもらったりしていたのだけれど・・・。

やがて、このシリーズ全体が、他の大手の出版社によって、
版権を独占された、と聞かされた。翻訳を巡っては、こういう話は
多々あるらしい。ちなみに当時はワープロも持っていなくて、
原稿用紙に鉛筆で手書きしていたのである。
深い脱力感に襲われ、しばらく何も手につかなかった・・・。

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