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本の虫(その5) [読書]

アメリカに留学のために日本を発った時、私は
三十歳を少し過ぎていた。それまで十年ほどもお勤めし、
ほんのわずかだが貯金ができてからの新たな出発。
不安いっぱいだったが、気持ちはずっと前向きだった。

借りたアパートの徒歩圏内に、公共の図書館が
あったのは幸運だった。この図書館は年中無休、
それに朝八時から夜十時くらいまで開館している。
パスポートを見せて貸し出しカードを作ってもらうと、
貸出冊数に制限はない、と言われた。う~ん、ちょっと
寛大過ぎはしないか? でも有難く、持てるだけ借りる。

最初は子供のコーナーに出かけて、児童書から借り始めた。
英語力に不安があったし、それに英語圏の児童書に
興味があった(できれば、日本に紹介する仕事がしたかった)。
でも、そんな不安も野望も一気に吹っ飛んだ。
本の世界に夢中になってしまったからである。


絵本を開くと、英語の言葉がたちまち実態を得て、
弾けだすような感覚を初めて味わった。ああ、これこそが
言葉だった、と自分が初めて平仮名を教わったときの、
あの、新しい世界へ一歩踏み出すような感覚、なのだが・・。

微妙にそれとも異なる。英語はすでに中学、高校、大学と
もういやになるほど「お勉強」している。でも、一度も
それらの「語感」を学ばずに来たんだ、と気づかされたのだ。

私はアメリカでアパートを借りるとすぐ、近くの中学校で夜間
開かれていた外国人のための夏季英語講座に通い出すが、昼間は
子供の本ばかり読んで過ごした。小学校時代に戻ったような、
あまく、幸せな時間だった。

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