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ザリガニの鳴くところ [映画]

評判になった映画。何しろ世界で1500万部も売れたという、同名の
小説の映画化である。題名も、どこか見知らぬ地へと誘われる感覚があり
素敵である。そして私が一番興味を抱かされたのは、かつて住んだことのある
アメリカ南東部のノースカロライナ州が舞台になっているところ。

今月、初めてWOWOWに登場したので、早速録画して観ることに。
冒頭、湿地帯近くに遊びに来た少年二人が、側の櫓から転落死したらしい
若い男の死体を発見する。うまい作りである。観客は大きな謎を与えられ、
この状況がどのような理由によるのか、考えながら映画に集中していく。

深い湿地帯は、高い木が生い茂り、その木からspanish mossと呼ばれる、
巨大な海藻状の植物が垂れ下がり、なんとも陰鬱な雰囲気を醸し出している。
NCに住んでいた頃に、州内の沼沢地に足を伸ばした事はないが、ルイジアナの
沼沢地を訪れたことはあり、その地の景色とよく似ていて、懐かしかった。

沼地で漁をしながら生計を立てている父、絵を描く母。仲の良い
姉や兄に囲まれて育つ末娘のカイア、幸せな幼児期を過ごしているかに見えた
のだが、暴力を振るう夫に耐えかねて母は家を出てしまう。
姉、兄も湿地帯を去り、父までが母の手紙に激怒して去ってしまう。
学校へも行かず、近くで雑貨屋を営む黒人の夫婦に助けられながら、
カイアは一人暮らしを続ける・・・。

この映画の主役は、何といっても、湿地帯、という特異な場所である。
人里離れた、いわば文明とは一線を画している場所。
そこに子供の頃から一人で住む女、となれば、地域から奇異な目で
観られているに決まっている。学校に馴染めなかった頃のカイアは、
汚れた格好をして、行動も不審、とみられ、いじめの対象だった。

成長した彼女もまた、弊衣蓬髪といった状態であるのが自然だろう。
それだからこそ、地域住民から疎まれ、有力者の息子だったチェイスを
殺したとしても、あるいは殺人まではしていないとしても、こんなはみ出し者
は、有罪になっても構わない、というような雰囲気が生まれそうな気はする。

だが、しかし・・。彼女は、清潔感溢れ、身なりも整っていて、とても
魅力的な女性に育っている。これには、どうしても違和感をぬぐえなかった。
だが、魅力的だからこそ、親切な少年テートに助けられて、文字を学び、
多くの書を読み、また母親譲りの画力を生かして、沼地の生物についての
見事な画譜を仕上げ、出版にこぎつける。世間一般の価値観からすると
マイナスだった成長環境を、最大限に生かして、人生を切り開いていくことに
なる。

そんな時、カイアをさんざん弄んだチェイスが死体で見つかる。
事故か事件か、わからないうちに、カイアに嫌疑がかかってしまう。

はてさて、チェイスの死亡時、編集者と打ち合わせするために遠出していた彼女に、
手を下す時間はあったのか。

最後に、暗示的な場面が流れるのだが、納得はできない。
まあ、サスペンスは大方、不自然な終わり方をするものだが。

色々と、齟齬を感じる作品だったが、娯楽ものとしては、良くできている、
と思われた。特に私は、NCの懐かしい地名を耳にすることができて、
しばらく、かの地での思い出に浸ることができた。
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