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不思議な偶然 [映画]

もう十六、七年程も前のことになる。短歌の会「塔」の横浜支部歌会に、
初めて参加された男性がいた。二十代後半、とおぼしきNさん。
詠草も二首提出されていて、今後も短歌を続けていかれるのか、と思ったのだが。

歌会を終えると、近くのファミレスで二次会をする、というのが当時の流れだった。
Nさんも参加され、その時に、自分は今、大林宜彦監督のもとに映画の作成現場で
働いている。と自己紹介を始めた。その映画はかつて大ヒットした「22才の別れ」
というポピュラーソングを下敷きにしたものであるという。

主人公が高校生の時、恋する相手が文芸部に所属して短歌を作っている、という
設定で、歌を短冊に毛筆で書いて登場させる場面があるので、短歌について
知りたくて、この歌会に出席した、ということだった。ちなみに彼の家は
我家から歩いて行けそうなくらいに近い地域にあった・・・。

短歌を詠む人が、毛筆で短冊に作品を書く、というのは、一般的なイメージ
なんだろうか、とみんなで驚いたのだけれども。Nさんは、この歌会の会員の
人に、何首か恋の歌を詠み、それを毛筆で書いてほしい、また、映画で重要な
役割を果たしている一首も、一緒に書いてほしい、と言い出す。その歌は

  路の辺の壱師の花のいちしろく人皆知りぬわが恋妻は
                  万葉集巻十一

なんだそうだ。皆いささか呆れて、「毛筆なんて、無理」と言い出す。
我が家が彼の家に近いことや、私の母が書道をたしなんでいることもあり、
いたしかたなく、私が引き受けることになった(勿論、ボランティア)。

映画のあらすじは、その時に教えてもらったが、若い頃に好きだった女性と
結婚できなかった男が、二十数年後、その女性の娘と偶然出会い、恋に落ちる、
とかいう話で、なんだか男に都合のいい展開だな、と呆れたのだった。
とにかく母に頼み込んで、この万葉集の歌の他に、牧水の恋の歌など、
合わせて八枚くらいの短冊を仕上げてもらって、Nさん宛に送った。

その後は、特に何の連絡もなく(ちょっと、失礼だと思う)。
大林監督のこの映画は「22才の別れ Lycoris 葉見ず花見ず物語」という題で
2007年に完成されたと、ネットで知った(全国の映画館上映、はなかったようだ)。
私はその後、レンタルビデオでこの映画を観た。確かに毛筆書きの短歌の短冊が
登場する場面があったが、それは母の手によるものではなかった。たぶん、字の
イメージが違うと判断されて、誰かほかの人に依頼されたのだろう。
エンドロールに目を凝らして、映画のスタッフにNさんが登場するのを
確認しようとしたのだが、出てこなかった。たぶん、途中で降りたのだろう。

それから数年後、私は近くを散歩していた時、Nさんと一度だけすれ違った
ことがある。ああ、今何しているんだろ、と思った。ところが・・・。

先日、阿部寛主演の「とんび」を観て、エンドロールが流れているのを
何となく見ていたら、なんとNさんの名前が(なんの役割をしていたか、
視忘れてしまったが)。ああ、まだ映画作りに携わっているんだな、と
ちょっと嬉しくなった。無礼なやつだったが、頑張れ。



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