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漢字のちから [言葉]

私が所属している「塔短歌会」。入会して今年で、なんと!
四十年にもなるのだが、二十余年前に、当時会員だったY・Kさんという
若い女性に促され、相模原市の公的施設を利用して、「塔」の東京西部
地区の会員向けの支部歌会を新設することになった。
現在月一度行っている「横浜歌会」の前身である。

K・Kさんは、その支部歌会の初期の頃に「塔」に入会され、お住まいが
近かったので、同時にその相模原での歌会に参加、以来、ずっと
一緒に横浜歌会に参加している、一番古い仲間である。

K・Kさんは、幼児期から目に障害をもたれていて、現在は強度の
弱視、さらに失明の危険と戦い続けておられる。現在は片方の目に
ほんの少し視力が残っている状態で、拡大読書器持参で、歌会に
ほぼ毎月参加されている。

普段「言葉がなかなか頭に入ってこない」と嘆いておられるので、
ある時「朗読を聞いてみるのはどうかしら。小説を朗読した
テープの類、結構出ているよね」と言ったところ
「う~ん、それもいいんだけれど・・・」と言葉を濁らせた後、
「わたし、漢字が読みたい!」と、きっぱりと仰られた。ああ、
そうだよなあ、きっと私も耳からの「ことば」だけだったら、
どんなにもどかしく感じることか、と思いった。安易に「朗読を」
などと口にしたことを恥じたのだった。

昨日はその横浜歌会があり、ある方の作品に「老女医」という
ことばが登場しているのを、拡大器を通して見たK・Kさんが、
「漢字ってすごいわよね。この三つの文字だけに、凄い情報が
詰まっていて、だいたいどんな様子の人物かすぐに想像できるなんて・・」
と驚きの声をあげていたのが印象的だった。

最近、私も驚くことがあった。2月25日(土)の朝日新聞朝刊の書評欄を
読んでいたら、「著者に会いたい」というコーナーに、『呪物蒐集録』を
刊行された怪談・呪物収集家という肩書をもつ田中俊行氏が紹介されて
いたのだが、その記事のなかに、

 呪うは、ネガティブな意味で「のろう」、ポジティブな意味で
「まじなう」とも読む。

と記されていたからである。同じ文字で、相反する意味を含むルビをふり、
使い分けることができるなんて・・・。と驚いたのである。
いやあ、漢字の世界は底なし沼のように深い。恐ろしい、と
想いながら、「塔2月号」をぱらぱらと読んでいたら、こんな歌が
目に飛び込んできた。その偶然に驚いたのだった。

  呪(まじな)ひも呪(のろ)ひも同じ字 前を向けと呪(のろ)ひの
  やうにかける呪(まじな)ひ    今井早苗「塔 2023年2月号」

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