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Falling [映画]

2021年公開の映画「Falling」を観る。カナダとイギリスの合作。
認知症が顕著になり始めた父ウィリス(シカゴ近くに住む)を、
自分の住むカリフォルニア州の施設に入所させるため、迎えに行ったジョン。
誰彼の別なく、罵倒の言葉を吐き、息子にも悪態をつきまくる父と、
閉口しながらも、なんとか父により良い生活を送らせるため奮闘する息子。

現在の時間の流れの間に、互いにどのようなかかわりをしてきたのか、
親子の記憶のなかの時間が映像となって挟み込まれる。
銃の撃ち方を教える父。素直に従い、すぐさま鴨を射止める息子。
父と母の関係も良好で、母は妹を身籠っている。幸せな四人家族の生活が
続くはずだったのだが。

父は古い「父親像」を頑なに守ろうとし、子供中心に生活を回そうとする妻に
不満を抱くようになる。妻は耐えきれなくなって、幼い兄妹を連れて家を出る。
アメリカでは、子供の親権がどちらであるかにかかわらず、離婚後も親は
子どもとの関係を続けようとする。週末や夏季休暇などには、二人の兄妹は
父と共に過ごすことになるのだが。二人は自分の価値観を押し付けようとする
父に反発し、せっかくの親子の時間も辛いものになっていってしまう。
見ていると、この「父親像」が現在のトランプ氏を
崇拝する人達が掲げる「理想像」と重なっていってしまう。

自然の中で独立独歩の生き方を貫き、白人至上主義的で、移民の受け入れに
反対し、銃の規制、同性愛や中絶などは言語道断。だから、息子がアジア系の
同性パートナーをもち中南米系の血を引く少女を養女として迎えていることにも、
強い不満を抱いている。息子の家では、こうしたことをめぐって暴言を吐き、
好き勝手に動き回った挙句、カリフォルニアで暮すつもりはない。
自分が建てた家に戻る、と言い出すのである。

二人の関係はもう、そこで切れてしまうのではないか。観ている者には
そう思われる。たとえ認知症を患っているとはいえ、父の息子に対する
ふるまいは目に余る。そこまでして、どうして息子は父の世話を
焼こうとするのだろう。

そうこうするうち、観客にも父の苦悩が見えてくる。強い父親像を
演じようと苦闘しつつ、家族に受け入れられなかった悲哀。
自分自身が、父親に虐待的な扱いを受けていたこと。
息子は父親の言動から、父の心境を理解していく。
自分の生活を変えることはしない。そのうえで、父と
どう折り合っていけるのか。父の暴言に耐えながら苦悩する。

この数十年の間に、激変したアメリカの価値観。その変わりようは特に
男性への影響が大きかったのではないか。変わってしまった人々と、
変われなかった人々と。その差はあまりにも大きくなり過ぎた。
苦しみながら築き上げてきた「理想像」にしがみ付こうとする人々が、
「トランプ流」を熱狂的に支持している、そんなことも考えさせる映画であった。

ちなみに、監督と主演を兼務しているビゴ・モーテンセンの自伝的な
作品なのだそうだ。
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