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傷や創 [言葉]

短歌を詠むようになってから、漢字の使い方に
かなり慎重になった。たとえば、「聞く」という動詞。
同じ訓みの漢字に「聴く」もある。違いはと言うと
「聞く」の方は、聴覚が正常であれば聞こえる、という意味。
「聴く」は、心して耳を傾けて聞き取る、という意味。
英語で言うところの、hearとlistenの違いに近いと考えている。

傷と創はどうだろう。とふと思いつき、辞書を当たってみた。
漢和辞典を引いてみると、「傷」の字義として、「いたむ」
「かなしむ」「やぶれる」などが出てくる。人偏の字なので、
人間の肉体、ひいては精神の損傷の意味の「きず」なのだろう。

では、「創」(きず)はどうだろう。広辞苑で「きず」を引くと、
「傷」「瑕」「疵」が一緒に出てくるものの「創」の記載はない。
漢和辞典で「創」を引いてみると、字義として「きず」の他に、
「つくる」「はじめる」と出て来て、「傷」とは最初から
異なる意味で生まれてきた文字らしい、とわかるのである。

そこで白川静『字通』を当たってみることに(この書は
手にするたびに厳粛な気持ちになる。文字を愛した人の
思いがひしひしと伝わる、素晴らしい書である)。

「創」という字は、もともとは、鋳型を刀で裂き、
創作物を取り出す、という意味の文字からできてきた
漢字である、という。そこから、「きずつける」「はじめる」
「つくる」という意味が生れてきたものなのだった。
漠然とながら、どうして「きず」と訓む文字が「創造」や
「創出」などの熟語になっているのか不思議だったが、
これで謎が解けました。

「傷」の方は、かなりマイナスイメージ、でも「創」の方は、
何かを生み出すために、人為的にかつ積極的につけるきず、
というわけなのでした。漢字の世界は深いよね。

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