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うたの真偽 [短歌]

今月の「塔」に掲載された私の作品の中の一首

  天竜の飛沫を一瞥せしのみに街区へかへす遠州鉄道

は、今年の大会が浜松で開かれた折、帰京する前に寄り道して
遠州鉄道と天竜浜名湖鉄道に乗車した折の経験から詠んでいる。
遠州鉄道は浜松を起点に西鹿島まで走る、郊外型の鉄道で、
沿線には浜松の住宅地がそのまま広がっている感じがする、
どちらかというと通勤通学のための路線、という印象だった。

その点で、窓から見る景色はあまり面白くない。乗車率も高く、
日曜日の午後の時間とあって、けっこう込み合っていた。
私はずっと車窓から外を見ていたが、実は天竜川は一度も
目にすることができなかったのである。

西鹿島で降り、少し近くをぶらぶらしてみた。天竜川には徒歩
十分くらいかかるという。帰りの時間も気になったので、
そのまま浜名湖方面からくる天竜浜名湖鉄道に乗り換え、
掛川を目指すことに・・・。

列車が走り出すとすぐ、車窓から素晴らしい景色が見えた。
天竜川の雄大な流れが、一気に飛び込んできたのである。川の水は濃い緑色。
息をのんでいるうちに、たちまち目前から消え、列車は濃い
緑の中を進んでいく。遠州鉄道とは違い、こちらはあきらかに
田園地帯を行く、「地方列車」だった。乗客は少なく、
多くは無人駅である。私はこのあたりの農村を訪れたことがないので、
車窓にしがみつくようにして、見入ってしまった。
遠州鉄道よりはるかに魅力的な路線に思えた。

だから冒頭にあげた一首は、事実とは違う。でも、遠州鉄道が天竜川の
すぐ近くまで通っていて、終点から少し歩きさえすれば、その美しい
景色を楽しむこともできるのに、実は通勤通学列車なんだ、
というところを詠みたかったので、これで通してしまった。
短歌は別に事実とは異なっていても、いいのではないか、と
私は思っている。短歌で地理を教わっているわけじゃないし・・。
でも、細かい人には「間違っている」と指摘されちゃうかな。
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