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二つのビアトリクス・ポター [読書]

「私、ピーター・ラビットと一緒に育ったようなもんだから」
そう言っていたのは、私より六歳も年下の友人T。
彼女の家で、全館揃った「ピーターラビットシリーズ」を
目にしていたけれど、当時は食指が動かなかった。なにせ、
このシリーズは、絵本ながら文庫本より一回り小さいくらい。
読みにくそうだな、ということと、余りにも有名だったため
ちょっと反発するような気持ちもあった。

最近、ポターの伝記的な映画を見たことがきっかけになって、
自分でも読んでみようか、と思ったのである。
ポターはピーターラビットの絵本が商業的成功を
収める前に、貧しい仕立て屋を主人公とした物語、
『グロースターの仕立て屋』を仕上げ、自費出版している。
1902年五月、500部を発行。するとまもなく、ピーターラビットが
大当たりし、同じウオーン社から『グロースター…』も
出版するように話が進むのである。

でも、ウオーン社は、ポターが自費出版した本をそのまま
発行しようとはしなかった。まずお話が長すぎること、
また挿絵にも細かく注文したらしく、ほとんどの絵が、
書き直し、差し替えされている。

自費出版された本の方も、後に再出版されているので、
今では二冊の『グロースター‥』を読み比べてみることもできる。

商業出版された本の方は、現代の高度な印刷技術を用いて、
おそらく当時刊行されたものよりも鮮明な仕上がりになっている
のかもしれない。ポターの原画により近いものになっているのでは、
ないかと思われる。絵が細密で、青色などの色味が深く、
ピンクが鮮やかで美しい。

一方、ポターの自費出版された方は、やや素朴である。
商業版に比べると、やや粗雑な印象もある。だが、素朴で
温かみが残っている、とも言えそうである。特にポターが力を
入れて描いたと想像される、七匹もの鼠が大暴れしている場面は
圧巻で、どうしてこの絵がカットされてしまったのか、と残念に
思われるほどである。実際、ポターは改作には乗り気でなかったらしい。

二冊の本でさらに大きく違うのは、物語の長さである。
自費版の方が、商業版の倍ほどもある。絵の頁数はほとんど
同じなので、全体に絵本という印象がないほどである。
子供にはとっつきにくいのではないだろうか。

私は二冊とも原書を手にとってみたが、単語もかなり難しく、
snippet(布などの切れはし )とかpipkin(小さな土瓶)などなど、
お初の単語がどっさり・・・。子供向けのはずだが、情けないことに、
辞書を引きっぱなしである・・・。子供は知らない単語が少し
入っているくらいの方が、持続的な興味を示すものだけれど・・・。

私が子供に買い与えるとしたら、やはり商業版、となるのかも。
でも二つのポター、読み比べられるとは、実に素敵なことに思える。
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