SSブログ

父と写真(続) [生活]

私が子供の頃、父が最も熱中していた趣味は写真だった。
私が物心ついた頃、つまり、一般家庭にカメラが普及していなかった頃、
父は二眼レフ、あの箱型の、のぞき込んで写すタイプのカメラを
持っていて、よく家族を写してくれていた。さらに焼き増しする
ための道具を買いそろえ、夜には台所を一時暗室に変えて、
遅くまで、作業していたこともよく覚えている。

私は格好の撮影対象だったようで、私にあれこれと
ポーズを取らせながら、何枚も写ししてくれた。
子供だから、最初は単純に喜んで言われるままになっていたが・・。
すぐに飽きてくる。するとそれが表情や態度に現れてしまうので、
父のダメ出しも増えてくる。するとさらに撮影時間が長引き・・・
という悪循環に陥ってしまうことも多かった。

よく覚えているのは、五歳くらいの時。父の郷里に近い
新潟の海での出来事。真夏だったと思うが、海岸に人は少なく、
父は海を背景に私を撮影し始めた。母も妹もそばには
いなかったので、当時父と二人で帰郷した時のことだろう。

最初は機嫌よく写されていた私だが、だんだん、疲れてきた。
こっちを向いて、あっちを向いて、笑って、笑顔が不自然だよ、
と父の要求も多く、もう、限界、と思うのに、父は私を放免して
くれない。その、少しずつ私が不機嫌になる様子が、コマ落としの
ように、当時の数枚の写真にありありと残っている。
そして、最後に列車の中で、窓に横顔を押し付け、涙を
こらえているらしい、私のしかめっ面まで写っているのだ。

当時父は、趣味の写真クラブのようなところに、作品を
出していたこともあったらしい。仲間内から評価されることも
あって、ついのめりこんでしまった、ということらしいが。

そのうち、父がカメラを持ちだしただけで、ぞっとするように
なってしまった。父もあきらめて、自然撮影の方に移って
いったようである。夢中になるとのめりすぎ、周りが見えなくなる、
という性格は、私がしっかりと受け継いでいるところがある。
時々、父と同じことをやっているのでは、ときづいて、
愕然とすることがある。

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0