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絵画のうた(その2) [短歌]

先回に続き、絵画を詠んだ葛原妙子の作品をもう一首。

  マリヤの胸にくれなゐの乳頭を点じたるかなしみふかき絵を去りかねつ
                         葛原妙子『飛行』

この歌を読んだ時、あ、誰の絵画が詠まれているのだろう、と思った。
聖母が胸をあらわにしているような絵を見たことがなかったからである。
調べてみると、乳児であるキリストに授乳する絵は、多くの画家によって
描かれているようである。葛原が詠んだのは、その手の絵画だったのだろうか。
でも、絵を特定する必要はない、と思わせる歌である。言葉の力が
ぐん、と前面に押し出て、絵の世界を後方へ押しやっている、そんな印象がある。

私は、マリヤのかなしみから出発しながら、
女性の肉体のかなしみへと普遍化されていく、そんな作品として読んだ。
そのような絵を、自分の中で想像しながら。

有名な絵が詠まれた作品である場合、読者はすぐに描かれた絵の世界へと
心を馳せてしまう。短歌より絵の鑑賞のほうへ、より心を傾けて
しまいがちだ。そのあたりが、名画や名作を歌に詠むことの難しさが
あるのだろう。(続きます)
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