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絵画のうた [短歌]

私は絵画を短歌に詠むことがけっこう、ある。
芸術品を短歌にすることに、批判する向きもあるみたいだが、
私自身は他の人が絵画を詠った作品を読むのも好きなのだ。
それはたぶん、私の好きな歌人、葛原妙子がよく手掛けているから、
だろうと思う。

  糸杉がめらめらと宙に攀づる絵をさびしくこころあへぐ日に見き
                    葛原妙子『飛行』

この歌に出会ったとき、作歌を始めて間もないころだったこともあり、
すごく驚いたことを覚えている。葛原はこれが誰の作品かは
一言も言っていない。でも、すぐに、あの画家のあの絵だ、とわかる。
そう、ゴッホの「糸杉」である。ゴッホは他にも「星月夜」や
「星月夜と糸杉の道」でも、燃え上がる炎のような糸杉を描いている。
でも、空に燃え上がるように立つ糸杉のイメージでいえば、
明らかに「糸杉」の方だろうと、思われるのだ。

ゴッホの絵の糸杉には、狂気を秘めた力強さがあり、めくるめく
情念の炎が渦巻いているように見える。
でも葛原自身も、しっかり絵の中の糸杉を受け止め、
同じくらいの力で、おのれの行き所ない心を、中空に放っている。
ああ、こんな歌が詠みたい、と私もあえぐように思ったものだ。

四年ほど前、連作の機会が与えられた時、私もゴッホの作品を
歌に詠んでみた。

  背景のみづあさぎの渦 自画像を蝕むごとし 鼓舞するごとし
                     岡部史

ゴッホの「自画像」(1889年7~9月)を詠んだ。
この作品の前に

 紙函のやうに撓める教会を描きて逝きたりフィンセント・ファン・ゴッホ
                      
を置いたので、わかってもらえるのでは、と思ったのである。
                (この項、続けます)
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