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比喩表現・奥泉の場合 [文学]

奥泉光という作家は、ずっと以前に何か短い文章で知り、
長いこと気にはなっていた。最近になってふっと思い出し
図書館で『シューマンの指』をみつけて読み始めると・・。
題名通り音楽にまつわる話だったので、たちまちのめり込み
あっという間に読了してしまった。途中から推理小説っぽく
なるのが唐突な感じがするが、とりあえず、最後はやや強引に
つじつまを合わせている。ま、これもアリかな。

特に私が心惹かれたのは比喩の卓抜な点だった。短歌とは
比較にならないほど、比喩のオンパレードなのだが、
それが読んでいくうえで面白さにつながることはあっても、
文章上の欠点とはならない、というか、ほとんど気になる、
ということがなく。『シューマンの指』の後に読み始めた
『神器』から引いてみよう。

 二曹は旱魃時のオタマジャクシみたいによろめき去った。
 …は二曹に輪をかけて気の弱い男で…板蒟蒻みたいに
 ぶるぶる震え・・・・あわわと蟹よろしく泡を吹くばかり

 床が波打つ絨毯みたいに蠢いている。…まるで壁に貼りついた
 巨大な百足のようである。…一繋がりになった切り絵のような
 …誰かに号令されたかのように…その顔は焼け焦げた木片みたいに

 腐葉土のように見える地面は死骸だ。…と見えたものは
 ケルンのごとき石積みである…幾本も林のごとく続いている。

と、もう例をあげるいとまもないほど。
ありきたりかな、と思える比喩の間に、う~mm、と、
舌を巻くほどにうまい比喩も登場する。
『神器』は、上下二巻と長いし、途中から何やらわけがわからなく
なるほど登場人物が多くて、筋も錯綜していて、嫌になってしまい
そうだったのだが、この比喩にみちびかれるようにして読み終えて
しまった。というわけで、私には比喩を楽しむための一冊のようでした。
『奥泉比喩辞典』、作れそうじゃわいの。とびきりの大冊が。
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